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パリ百貨店に見る注目のコンセプト&テーマ -【松下 久美 kumicom代表】2018.12

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2018年の9月下旬から10月上旬にかけて、パリを訪問しました。19年春夏コレクションの開催時期に合わせたもので、秋本番、かつ、業界関係者が集まるタイミングで、百貨店も各社各様の打ち出しをしていました。ここでは、ギャラリー・ラファイエット、プランタン、ボン・マルシェの3百貨店について、注目ポイントをレポートします。

アイキャッチ画像はボン・マルシェの全景となっています。

ギャラリー・ラファイエットは
全館挙げてサステイナビリティ訴求

ギャラリー・ラファイエット店内

仏最大の百貨店ギャラリー・ラファイエット本店では、全館を挙げて「GO FOR GOOD」キャンペーンを行っていました。アンバサダーに起用したエシカル・ファッション・リーダー、ステラ・マッカートニーとともに、“ファッションを通じて社会や人々の生き方を良くするための持続可能性(サステイナビリティ)を追求しよう”というものです。

ファミリー経営で、12年ごろからとくにサステイナビリティに力を入れてきた同社。「Eコマースの台頭や商習慣の変化の中で、伝統的な小売業者は苦戦を強いられている。若い層を中心に、エシカル、あるいは、サステイナビリティに意識の高い人々が増えている。エシカル、サステイナブルな企業・ブランドを支援し、責任あるファッションを提供していきたい」というわけです。

ギャラリー・ラファイエット GO FOR GOOD 特設コーナー

今回のキャンペーンには、500ブランドが参加。「天然素材」「リサイクル」「ローカル(地域で雇用を創出)」など定めた38項目のうち1つでも満たしていれば「GO FOR GOOD」アイテムと認定(ブランド単位ではなく、あくまでも商品単位)。9月6日から10月12日まで、ファサードや館内にはフラッグを掲げ、ウィンドーやVPはすべて関連アイテムを陳列。2階には特設コーナーを設け、ワークショップなども開催しました。食品やこれまでご法度だったラグジュアリーブランドのヴィンテージアイテムも販売しました。

ギャラリー・ラファイエット 超越瞑想展

ステラによる企画展「サンクチュアリ―・オブ・スティルネス」(静かなる聖域)による、マインドフルネスの一種、TM(TRANSCENDENTAL MEDITATION、超越瞑想)のススメにも時流を感じさせられました。

ボン・マルシェは全館で
ライフスタイルの先進シティ“ロサンゼルス特集”

ボン・マルシェ館内

パリのセーヌ川左岸にあるボン・マルシェは、1852年にオープンした“世界最古の百貨店”です。1984年に、「ルイ・ヴィトン」などを擁するLVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(フランス、パリ)グループの傘下に入りましたが、もともとが大衆百貨店だったこともあり、左岸を中心とした地元の人々に多く愛されており、インバウンド客も他店に比べると少なめで、落ち着いて買い物やウィンドーショッピングができます。

毎年9~10月には、ブラジル、ロンドン、日本、ブルックリン、パリなど世界各国・都市をテーマにした大企画を行っています。今年はアメリカ・西海岸のロサンゼルスにフォーカス。「ロサンゼルス リヴ・ゴーシュ」展と命名し、自社のスタッフがセレクトしたファッション、インテリア、コスメ、グルメ、カルチャーなど約200ブランドを各フロアの主要スペースで展開していました。

ロサンゼルスといえば、日本ではアダストリアの「ベイフロー」がリブランディング後に健闘し、「アメリカンホリック」が、ショップの閉店が続くショッピングモールで“あだ花”のように勢力を拡大しています。しかしながら、ブームの火付け役だったサザビーリーグの「ロンハーマン」がすっかり落ち着いたこともあり、ロサンゼルスというテーマに対して、「ファッション的な目新しさ」はもはやないと感じる人も多いと思います。

ボン・マルシェ ロサンゼルス特集

ただ、ファッションでは目新しくなくても、ロサンゼルスはスケートカルチャーの重要な拠点であり、最近のストリートのムーブメントやスニーカーブームのエピセンター(震源地)です。また、アスレジャーのスタイルやニーズはさらに広がりを見せています。さらに、職住近接型で、サーフィンやヨガといった趣味やトレーニングを日常的に行ったり、日々の生活を楽しむワーク・ライフ・バランスの取れた働き方という意味でも、理想の街の一つです。

ボン・マルシェ ロサンゼルス特集

また、彼らが得意とするヘルス&ビューティ、ウェルビーイングにまつわる商品やサービスに対するニーズは、ますます高まっていきます。ライフスタイル的な視点でみれば、まさにロサンゼルスは世界中から注目を集めるクールなホットエリアなのです。サンフランシスコ、シリコンバレー、ポートランド、そしてシアトルを含めた、西海岸にインスピレーション・トリップに行くビジネスマンが増えているのもうなずけます。

プランタンは新生メンズ館と初のフードフロアに注目

プランタン・パリオスマン本店では、2年間かけて、メンズ館とビューティ・インテリア館を入れ替える大リニューアルを行ってきました。メンズ館は昨年1月に大部分が完成していたのですが、ようやく今年9月にグランドフロアのアクセサリー売り場が完成し、グランドオープンを果たしました。

今回の入れ替えの最大の目的は、大通りから一本入った裏手にあったメンズ館を表に出すことでした。売り場面積もそれまでの6,000㎡から1万1,000㎡に拡大しています。また、上層階の7、8階に、プランタン152年の歴史の中で初めてフード・フロアを設けたのも大きなポイントです。

プランタン メンズシューズフロア

プランタン チーズ売り場

このメンズ館は、各フロアの中央を貫く形でエスカレーターを配置。ガラス壁を多用することで移動中に各階の雰囲気を眺めることができ、開放感と回遊性を高めているのが特徴です。並行する形で、「エネルギー」をコンセプトに、高さ26メートルの船の帆をイメージしたウォールが反り立ち、気分の高揚に役立っています。3組の建築デザイン事務所に数フロアずつデザインを任せることで、各フロアの特性を際立たせることにも成功しています。

プランタン グランドフロアのル・マスキュラン・サンギュリエ

完成したばかりのグランドフロアにあるアクセサリー売り場には、クラフツマンシップをテーマに、独自にメンズ小物を自主編集した「ル・マスキュラン・サンギュリエ」を展開。90㎡足らずですが、帽子やグローブ、ゲームなど、趣味性の高いアイテムをそろえてセンスの良さをアピールしています。他にも2階のカジュアル系PBの「オー・プランタンパリ」、スーツのPBの「ブルンメル」、3階で雑誌の「ザ・グッド・ライフ」と協業した、家具やステーショナリー、自転車、トイなどを扱う「ザ・グッド・コンセプト・ストア」など、各階にある自主編集売り場やPB売り場も他社との差別化に寄与しています。

ちなみに、1階にはアバンギャルド系のブランドを集積。「ロエベ」「ラフ シモンズ」「コシェ」「トム ブラウン」などに加え、「アンダーカバー」「カラー」「ファセッタズム」「ヨウジヤマモト」「アンブッシュ」「ミハラヤスヒロ」など、日本ブランドも多く扱われています。とくにこのフロアの存在が、インバウンドを含めた、若い顧客層の取り込みをけん引しています。

メンズ館の上層階の2フロア・約1,700㎡に今年1月にオープンした、“フレンチガストロノミーの最高峰”をスローガンに掲げるフードフロア「プランタン デゥ グー」はかなり秀逸です。

プランタン 8階 生鮮食品売場

プロジェクトがスタートしたのは2015年のこと。それから3年をかけて、食のプロフェッショナルたちが、フランス国内をくまなく歩き、逸品を開拓してきました。フランス製のものだけを集めており、3年間で2,000人の職人が作った1万8,000品目をテイスティングし、その中から2,500をセレクト。フードジャーナリストも知らないような小さな農家が作ったジャムやハチミツ、個店のコーヒーなども入っており、美食の国・フランスのフードジャーナリストも知らないような品も多いそうです。

プランタン 8階 レストラン

7階が高級エピスリー(食材店)、8階がマルシェになっています。アトリエが併設されていたり、テイスティングができるバーや本格的な食事ができるレストランも構えています。フランスのアイコニックな食材として、フォアグラ(メゾン・デュベルネ)、トリュフ(メゾン・バルム)、ワイン(ル・ルペール・ド・バッキュス)、魚の燻製(ビザンス)、チョコレート(ラ・メゾン・デュ・ショコラ)などの名店を導入。さらに、魚・肉・野菜・果物のゾーンは2つ星ミシュランのアクラム・ベナラル、パンは一時期日本でも活躍したゴントラン・シェリエ、チーズにはローラン・デュボワを起用しています。

観光客にとっては土産物を買う際にも原産国などに惑わされることなく、純粋に買い物を楽しめますし、他の百貨店やスーパー、空港の土産物店などにはない商材とも出合うことができます。規模ではかないませんが、ギャラリーラファイエットやボンマルシェよりも魅力的に見えました。レストランはエッフェル塔も見えるなど景色も良く、人気の穴場スポットになりそうです。

プランタン 3階 ザ・グッド・コンセプト・ストア

サステイナビリティ、マインドフルネス&メディテーション、ライフスタイル提案、メンズ強化、フード強化、ローカル色の強化など、パリの百貨店では、注目すべきコンセプトやテーマが見つかりました。デジタル施策が進むニューヨークとは異なるインスピレーション源として、あらためて見直したいですね。

松下 久美 / Kumi Matsushita

ファッションビジネス・ジャーナリスト、kumicom代表。
「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。ザラ、H&M、ユニクロなどのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、ユナイテッドアローズ、ビームスなどセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。
「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を手がけた。
2017年に独立。著書に『ユニクロ進化論』。

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