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NEW YORK Now -【八木 陽子 R・B・K】2018.1

ニューヨークで広まる”上質なカジュアル”が日本でもキーワードになるはず

厳しい時代に入ったニューヨークの商業マーケット

シーポート・ディストリクト・NYC

2017年11月、ニューヨークに行ってきました。

まず感じたのは、「ブルーミングデイルズ」や「バーグドルフグッドマン」「サックス・フィフィス・アヴェニュー」「バーニーズニューヨーク」など、いわゆるファッションを強く打ち出す老舗百貨店に活気がなかったことです。どこもお客様が少なく、販売員がヒマそうでした。

新しい商業施設でもテナント出店の交渉が難航しているところもあるようです。

12年に起きたハリケーン・サンディによって大きな被害を受けたブルックリンブリッジのたもと、サウス・ストリート・シーポート地区の復興プロジェクトとして進められている「シーポート・ディストリクト・NYC」も開業していますが、半分ほどしかテナントが埋まらず閑散とした雰囲気に包まれていました。

ウエストフィールド・ワールドトレードセンター

オープンしてから1年以上経つ「ウエストフィールド・ワールドトレードセンター」ではまだ空きスペースがあり、そこをイラストを描いた張りぼてで隠しているのが印象的でした。しかも、この施設の運営会社「ウエストフィールド」が、視察して間もない12月14日、157億ドル(約1.8兆円)でフランスの不動産投資会社に買収されたニュースが世界を駆け巡りました。

百貨店の衰退、商業施設の限界といった状況はニューヨークに限らず日本も同じ。
あらためて商業マーケットは厳しい時代に入ったことを痛感しました。

 

厳しい時代の新しいキーワードは “上質なカジュアル”

そう感じると同時にあるキーワードが浮かびました。それは”上質なカジュアル”です。

商業マーケットの厳しさを痛感した今回の滞在中に、たくさんの人を見かけたところはどこだったか。
それは食関連のスポットです。東京駅のグランスタにもオープンした「EATALY」や、プラザホテルの地下にあるフードホール、ガイドブックでおなじみの「チェルシーマーケット」は相変わらず盛況でした。

EATALY

 

チェルシーマーケット

サスティナブルをコンセプトにした、サラダバーやジュースバー、カフェ、例えば「sweetgreen」「pressed juicery」「by CHLOE.」なども増え始め、マクドナルドやサブウェイといった昔ながらの大手ファストフード店は影を潜めたような……。

このような人気スポットは確かに美味しいですが安くはありません。でも高級レストランのような堅苦しさはなく、服装を選ばない適度に洗練された空間作りが共通点です。

多少高額でも環境や健康を考慮した美味しいものを、おしゃれで、しかもカジュアルな雰囲気で食べたい。

この傾向がニューヨークの人たちの間でどんどん強くなっていると感じました。

sweetgreen

 

by CHLOE

“上質なカジュアル” はファッションでも

元気のないファッションでも、 “上質なカジュアル” の動きが見られました。

Supreme

 

KITH

移転リニューアルした「KITH」をはじめ、ブルックリンに新店舗を構えた「Supreme」、体験型を目玉にしたソーホーの「NIKE」や五番街の「adidas」といった、ストリートやスポーツを主軸にしたショップは、たくさんの人で賑わっていました。

adidas

 

NIKE

カジュアルといっても一昔前に比べると価格はだいぶ上がっています。スニーカーやTシャツに2万円以上かけることはファッションに敏感な人たちの間では普通になってしまいました。

上質な素材で仕立てたカジュアルな服や小物。世界のファッショントレンドを見ても、この流れは定番化するでしょう。

 

「上質とは何か、カジュアルとどう組み合わせるか」の理解がポイント

“上質なカジュアル”というキーワードは、これから日本の商業マーケットでも重要視されるはず。

ただ“上質”といっても、それは、高額になっても構わないので、高い技術と高級な素材を用いる、ということではありません。

これから求められる“上質”とは、「生産背景が見え、安心安全で、心身共に良い影響を与え、しかも、希少性があり、洗練されていて、なおかつ、作り手の愛情がこ もっている」といった、物やサービスができあがるまでのプロセスや、発信する側の理念を、ストーリーとして伝わる形で表現していかなくてはなりません。

また、こうした“上質”は、それだけを追求してしまうと、誰もが受け入れられるものではなくなります。ですから、“上質”に「気軽」や「親しみやすさ」といった“カジュアル”な要素を加えてバランスをとることが大事です。ところが、この“上質”と“カジュアル”のバランスが難しく、そこに発信する側のセンスが問われるのです。

上質とは何か、カジュアルとどう組み合わせるか。それぞれのポイントを理解して、新たな一手につなげていただきたいと思います。

ニューヨークに行かれる際はぜひここで挙げたスポットに立ち寄ってみてください。
これから求められる“上質なカジュアル”のヒントを感じ取れると思います。

 

八木 陽子 / Yoko Yagi

ファッションエディター&ライター、マーケティングディレクター。
雑誌「装苑」(文化出版局)の編集を経て、ニューヨークに渡る。帰国後、出版社などに勤めた後にフリーランスへ。現在は編集業だけでなく、株式会社R・B・Kにてコンサルティング業にも携わる。
専門分野は東京のファッションと商業マーケット。手がけた書籍は「ミナ ペルホネンの時の重なり」「ラ・フルールのコサージュ」(共に文化出版局)、「TOKYO STREET STYLE」(2018年春発売、ABRAMS)など。

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