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日本橋浜町の新スポットから学ぶ商業施設に必要な“人が集まる仕掛け” -【八木 陽子 R・B・K】2019.3

2月15日、東京・日本橋浜町に「HAMACHO HOTEL & APARTMENTS」と「WAVES 日本橋浜町」がオープンしました。
“「手しごと」と「緑」のみえる街”をコンセプトに、そのエリアの街づくりを行う安田不動産株式会社(東京都千代田区 / 以下、安田不動産と表記)が手がける新スポットです。前者はホテル、店舗、賃貸住宅で構成された複合施設で、後者は飲食店を併設したソーシャルアパートメントです。

ここでキーワードとなるのが、ホテル。

今、都内にホテルが続々とオープンしていますが、その中でも新感覚のところが注目されています。「HAMACHO HOTEL & APARTMENTS」もその一つ。何が新感覚なのか?リサーチすると商業施設に必要な”人が集まる仕掛け”が見えてきます。

アイキャッチ画像は日本橋浜町にオープンした「HAMACHO HOTEL & APARTMENTS」
清洲橋通りに面したホテル側のエントランス

食を中心に
多様な人たちが集まる空間

1階のホテルの受付から向かって左側にあるレストラン「HAMACHO DINING & BAR SESSiON」は、株式会社ブルーノート・ジャパン(東京都港区)が展開する新業態です。

コンセプトは「街のダイニング(食堂)」。

宿泊者や住居者だけでなく誰もが利用でき、将来的にはブルーノートと交流を持つ国内外のミュージシャンをゲストに呼んでライブを行っていくそうです。同じく、1階の住居側のエントランス方面にはチョコレートショップ「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」が出店。豆から商品化するまで一貫して行うビーン・トゥ・バー形式で、カフェとオープンキッチンを併設しています。こちらも今後はワークショップを開くとのこと。

ブルーノート・ジャパンが手がけるレストラン「HAMACHO DINING & BAR SESSiON」

ブルーノート・ジャパンが手がけるレストラン「HAMACHO DINING & BAR SESSiON」

同じ1階にあるチョコレートショップ「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」

同じ1階にあるチョコレートショップ「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」

「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」の上階にあるのはギャラリー&客室の「TOKYO CRAFT ROOM」。年2回ほど、国内外のデザイナーが日本各地のものづくりの現場に足を運び、その風土や人々が息づく作品を制作し、完成品はこの空間に展示します。リクエストがあれば実際に宿泊することも可能。作品の一部はホテルのアメニティとして提供し、販売も行っています。
ちなみに、目と鼻の先にある「WAVES 日本橋浜町」の1階には江古田で人気のパン屋「ブーランジェリー・ジャンゴ」が4月に移転オープンする予定。オーナーはもともと日本橋浜町の出身、故郷に戻る形で再スタートします。

ギャラリー&客室の「TOKYO CRAFT ROOM」。 現在はアムステルダムの「ディー・イントゥイティファブリック」と「インゲヤード・ローマン」の作品を展示中

ギャラリー&客室の「TOKYO CRAFT ROOM」。 現在はアムステルダムの「ディー・イントゥイティファブリック」と「インゲヤード・ローマン」の作品を展示中

カップはアメニティとして客室でも使われ、ホテルの1階ロビーにて販売もされている

カップはアメニティとして客室でも使われ、ホテルの1階ロビーにて販売もされている

上質で本質的なものを好む
ニッチな層の知識人をターゲットに

この新スポットに出店したどのテナントも、おしゃれに敏感な人たちが集いそうな、こだわりのある洗練された雰囲気を持っているのが特徴。海外の人たちを呼ぶ力もあると思います。実際のところ大衆向けではありませんが、決して大きな規模ではありませんので、上質で本質的なものを好むニッチな層の知識人をターゲットにしたと推測されます。

日本橋浜町エリアを再開発する安田不動産は、コンセプトの一つである「手仕事」を「上質で本質的なもの」として捉え、街に根付かせたいのではないでしょうか。実際のところ、近隣エリアには人形町や水天宮があり、大衆が楽しめるスポットがたくさんあります。差別化を測る意味でも、このテナント構成は上手なところを突いたと言えるでしょう。
それに知識人(=文化人)は人を魅きつける力があります。知識人が集まると自ずと様々な人たちが集まり、そこから新しい文化が生まれ、街が活気を帯びていく可能性は大いにあります。ですので個人的には、この新スポットのこれからの発展がとても楽しみです。

ホテル客室。周辺は高い建物が少なく、場所によってはスカイツリーや東京タワーが見渡せる

ホテル客室。周辺は高い建物が少なく、場所によってはスカイツリーや東京タワーが見渡せる

アパートメントで連携契約ができる部屋。デザイン性を重視したおしゃれな空間が広がる

アパートメントで連携契約ができる部屋。デザイン性を重視したおしゃれな空間が広がる

ステータスを感じる
ホテルとアパートメントの融合

「HAMACHO HOTEL & APARTMENTS」の客室(全170室)と住居(全108室)は、同じ建物で構成されていますが、宿泊者はアパートメントには入れない仕組みになっていてセキュリティも万全です。ホテルとアパートメントでは建築法が異なり、ホテルのほうが規制が厳しいと言います。
実はこの建物自体はホテルとして申請しているそうです。関係者の話が聞けず真相は定かではありませんが、おそらく、住居者の人たちにホテルに住んでいるかのようなステータスを味わってもらいたい狙いがあると思われます。またアパートメントのほうは、オフィスやシェアルームとしても利用できるように連携契約ができる部屋もあるのが特徴です。

とにかく客室も住居も、おしゃれ。上階からスカイツリーと東京タワーを眺めて、1階のレストランとチョコレートショップ、2階のギャラリー空間を訪れると、都内在住の人でも思わず「泊まってみたい」「住みたい」「ここで働きたい」そして「また行きたい」と思うに違いありません。

「HAMACHO HOTEL & APARTMENTS」のすぐ近く、同じ安田不動産が手がけるソーシャルアパートメント「WAVES 日本橋浜町」

「HAMACHO HOTEL & APARTMENTS」のすぐ近く、同じ安田不動産が手がけるソーシャルアパートメント「WAVES 日本橋浜町」

「WAVES 日本橋浜町」の上階は住居者共有のキッチン付きのラウンジがある

新感覚のホテルが定義づける「おしゃれ」
それを理解すると人が集まる仕掛け方が見えてくる

「HAMACHO HOTEL & APARTMENTS」をはじめ新感覚のホテルには、地域に根ざした「おしゃれ」の要素をしっかりと押さえています。
その「おしゃれ」とは何を指すのでしょうか。

気をつけたいのが、「おしゃれ=ファッション=服」と定義づけるのはもう古いです。ファッションは服だけではありません。食もインテリアも芸術も全てを含みます。周りにいるおしゃれな人をよく観察してみてください。服装にこだわりを持っている人は、衣食住の何もかもにこだわりを持っていませんか?
ステータスと似ているところもあり、流行に左右されない本質的なものを含んでいるのが、今の「おしゃれ」だと思います。その感覚を掴むと、人が集まるために必要な仕掛け方が見えてくると思います。そしてその「おしゃれ」を押さえた新感覚のホテルこそ「おしゃれ」の一つ。つまり、”新感覚のホテルに行くことがおしゃれ”なのです。雑誌などメディアの間では新感覚のホテルのことを「ライフスタイルホテル」と呼んでいます。この春オープンする「MUJI HOTEL GINZA」、19年の年末に日本初上陸を果たす「ACE HOTEL KYOTO」もそれに当てはまるはず。

外出したくなる春はもうすぐ。ぜひライフスタイルホテルに訪れて、人が集まる「おしゃれ」な仕掛け方のヒントを探してみてください。

八木陽子 / Yoko Yagi

ファッションエディター&コーディネーター、マーケティングディレクター。
雑誌「装苑」(文化出版局)の編集を経て、ニューヨークに渡る。帰国後、出版社などに勤めた後にフリーランスへ。現在は編集業だけでなく、株式会社R・B・Kにてコンサルティング業にも携わる。
専門分野は東京のファッションと商業マーケット。
手がけた書籍は「ミナ ペルホネンの時の重なり」(文化出版局)、「TOKYO STREET STYLE」(ABRAMS)、「EB.A.GOS バッグヲツクル」など。